「年に一度しか会えぬと言うのは、どうなのだろうな」
銚子を置いて見上げた夜空には見事な星の川が流れていた。
今宵は快晴。空気も澄んでいて雲一つないのだから、きっと彼の二人の逢瀬も上手く行っている事だろう。
「…さて。哀しいと言う者も居れば、羨ましいと言う者も居るでしょうね」
御屋形は如何か?
そう背後に控えた綱元に尋ねられ、政宗は暫し瞑目した。
「――今は、羨ましいな。年に一度とは言え、逢えるのだから」
「…昔であったら?」
「絶えられん」
キッパリと答え、政宗は困ったように眉を寄せた。
「居なくなるのは知っていたのに、いざ居なくなってしまえば逢いたくなる…気が済むまで逢っておけば良かったと思ったところで、時が経てば寂しくなる……女々しいものだな」
「女々しいものですか。人とあれば、必ず持つ感情でしょう」
「左様か」
ぽつりと呟いて、政宗はまた空を見上げた。
「年に一度か…それが永久に続くと言うのも考え物かもな」
なれば、今ぐらいは我慢してやるかと呟いて、政宗は傍らの銚子を空に向けて掲げた。
「待ってろよ、小十郎」
笑って告げれば背後でふわりと、誰かが笑う気配がした。
終
・・・余談。
「…空じゃなくて後ろに居るんだけどねぇ、景綱?」
こそりと傍らに語りかければ昔と変わらぬ姿の異父弟が苦笑して人差し指を唇に当てた。
『お忍びですから、内々に――』
くすり、と微笑んだ異父弟につれられて綱元もまた、微笑んだ。
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