小狐(仮)はゆっくりと目を開くと暫らくぼーっと畳を見ていたが、いきなりぱちりとその黒目しかない瞳を瞬かせた。
「小十郎……?」
呼べばぴくりと耳を動かし、ぱしぱしと瞳を瞬かせる。
クゥ、と細く鳴いて小狐(仮)は政宗を見上げた。
「小十郎」
再度呼べば首を傾げ、ぱたぱたと尻尾を振りながら政宗を見上げてきた小狐(仮)。
暫し、見つめあった。
「――あ」
横から手が伸びてきて小狐(仮)を視界から掴み出すまで見つめ合い、政宗は思い出したように瞬きをすると小狐(仮)を視線で追った。
「ひゃー。軽っ!ちっさー……あ!コラ、暴れるなって……!」
成実に首根っ子を捕まれ、空中でくるんと猫のように身体を丸めた小狐(仮)はじたじたと暴れ、成実の腕を逃れた。
そして身軽に地面に着地すると再び政宗の膝の上に陣取った。
「……間違いない。小十郎だ」
「おやまぁ。妬けますね」
ご機嫌な様子で政宗の膝の上でぱたぱたと尻尾を振る小狐……いや、もうこの際小十郎でいいか。
「……普通じゃ考えられない行動だぞ」
「赤子に戻ってからこうなりましたからね。本能に忠実なのでしょう」
のほほんと言った綱元は何やら紙と筆を取り出して書き付けていた。
「何書いてるんだ?」
「似絵ですよ。ちょっと山行って件の自称妖怪ふん捕まえて小十郎の事、聞いてきます」
よし完成、と言って筆を置いた綱元の手元には……精巧な似絵。
それをぴらぴらと揺らして墨を乾かせ、乾いたのを見計らって四つ折りにして懐にしまった。
「詳しく判ったら他に食べた者達にも教えねばなりませんね。――では」
「あ、俺も行く行く!待ってよ綱元!!」
しゅぴっ、と片手を挙げ、颯爽と去って行った綱元を追い掛けた成実の後ろ姿を見送り、政宗はまた膝の上に視線を落とした。
――小十郎は、再びすやすやと眠っていた。
続。
なかなか進みませんね……!
小十郎はまだ喋れません☆
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