夕日に染まる神社に人の影はなかった。
「小十郎」
綱元と東西に分かれ、捜すが返事は帰ってこない。
縁の下や、それに準じた隠れやすい所にいるはずだ、と言う喜多の言に縁の下を覗き込むがそれらしき姿はない。
「……何処だ」
「あまり離れた所には居ないと思うのですが……」
喜多とそう喋りながら場所を変えては縁の下を覗くがその姿は見当たらない。
――ふと、小さな鳴き声が耳に届いた。
誘われるように鳴き声の方――神社の境内から最も離れた敷地内に近づいた。
「――小十郎」
茂みを掻き分け、見た先には木の幹に持たれ掛かりながら浅く呼吸を繰り返す小さな獣。
駆け寄って抱き上げるとぐったりとしていて、軽く焦った。
「神社の敷地内から出れば大分楽になるはずですよ」
袖から響いてきた喜多の言葉に頷き、木の柵を乗り越えて敷地内から飛び出した。
途端、腕の中の小十郎がほぅ、と息を吐いた。
「綱元を呼んできますので暫らく此処に」
そう言った喜多は政宗の袖から出ると柵の間を擦り抜け、来た道を駆け足で戻っていった。
そして残されたのは、一人と一匹。――いや、妖怪二つ。
「小十郎?」
腕の中の小十郎を覗き込めばまだ怠そうな様子で耳をぺたんと垂れ下げていた。
「辛いか?」
尋ねれば漸く顔を上げ、政宗を見た。
状況が飲み込めていないのか、ぱしぱしと瞬きを繰り返し、すんすんと鼻をならした。
「覚えているか?」
首を擽ってやればごろごろと咽を鳴らし、ぴこんと垂れていた耳が立った。
――どうやら、印象は悪くなかったらしい。
「とー」
「――っ?!」
不意に響いた、舌っ足らずな声。
それは、紛れもなく腕の中の小十郎から紡がれたものだった。
「こ――」
「とー、と?」
ぱたぱたと尻尾を振り、幼い声で言う小十郎。可愛くない筈がないだろう。
「……ッツ!!小十郎が喋った!」
「しー?」
「喋った!」
「……ぺた?」
嗚呼、自分なんて馬鹿なんだろうと思いながら。
喜多が綱元を連れてくるまで、その場でずっと小十郎に言葉を復唱させては楽しんでいた。
続
会いました。片倉さん、ずっと寝てたのでカタコトしか話せません。
「ク●ラが立った!」的なノリで殿の台詞を読んであげてください。(えー)
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