街はバレンタインで浮き足立っている。
店にはきらびやかに飾られたチョコレートが並び、女性達が楽しそうにチョコを選ぶのを何処か羨ましそうに見る男達。
――きっと、自分もその中に入っているのだろうと小十郎――本来は景綱と言うのだが、まぁこの際どうだっていい――は思った。
このいかつい外見とは対称的に、小十郎は無類の甘党だ。
きっと、真田や毛利とも競えるほどであると自分でも思っている。
そんな中、このバレンタインデーは嬉しい反面、生殺しだった。
高級菓子店やらチョコレート専門店やらが競って限定品を出すのでそれを食べられるのは嬉しいのだが、それを買いにあの渦中に身を投じるのは少々――いやかなり、勇気を要する。
「……景」
ぼそりと呟けば、傍らにいた連れが深々と息を吐きだした。
「……だから、ウィッグを持ってきたんですか」
仕様のない方ですね、と大きめの色の濃いサングラスに鍔広の帽子を目深にかぶり、直毛のウィッグを付けた男は小十郎の双子の兄だ。
生まれて直ぐに養子として親戚に引き取られたため、今まで彼の存在は知らなかったが、小十郎が営んでいる小料理屋に彼等が食事にきて、その関係を知った。
何の因果か、遥か昔――何故か前世の記憶があるのだ――にも、彼等は双子だった。
その時は自分が小十郎、兄が景綱と呼ばれていたが――と言うか、二人とも名が“片倉小十郎景綱”なのだが――こちらでは自分が景綱、兄が小十郎という名だった。
その兄は相変わらず自分と似ても似つかぬ単身痩躯に女顔。中性的な服を着てしまうとどちらか判断するのに困ってしまう。
その兄にウィッグをつけさせて体の線が分かりにくい服を着せれば簡単に女に見えてしまうので、少し協力してもらったのだ。
「目当ては?」
小十郎の手を取って微笑んだ兄は男らしく堂々と渦中に歩を進めた。
某有名菓子店の名を言えば躊躇う事無く歩み、人を掻き分けディスプレイの最前列に陣取った。
――実に、男らしい。
「そう言えば最近、焼酎を使ったチョコとか出てますよね」
ディスプレイの最前列に陣取り、この店にないものの話をするのはある意味凄いと思う。
「――で?聞くまでもないと思いますが、どうします?」
にこりと微笑んだ兄に、小十郎はひとつ嘆息してから「端から全部」と囁いた。
「これで三ヶ月は食べれますね」
二人で両手に大量のチョコを抱えながら兄は苦笑しつつ、言った。
この兄はとにかく甘いものが苦手で、最近話題の高濃度チョコですら「甘い」と顔をしかめるのだ。
もともとあまりよい食生活を送っていなかった所為か、果実など自然の甘さは平気なのだが、砂糖などでかためられた人工の甘さは苦手らしい。
「あ。そうだ。小十郎さん」
漸く小十郎が経営する小料理屋に辿り着いた時だった。
はたりと立ち止まった兄は何度正しても治らない昔からの呼び名で小十郎を呼ぶと持った荷物を一旦地面に置いた。
「Saint Valentine's Day」
流暢な発音と共に差し出されたそれは綺麗に包装された細長い箱。
「――て言っても、包丁ですけどね」
くすりと笑って店の扉を開けた兄に、中で待っていた政宗が遅ぇ、と抱きついた。
余談。
後日兄と買い物をしている姿をスッパ抜かれ――兄は会社に半ば強制的に政宗専属のマネージャー兼女性モデルとして働かされているのだ――、あることないこと書かれてしまった。
三ヶ月分のチョコの代償は、痛かった。
終
私は政小を書こうとしたはずだったのにこじこじになったよ……
バサラ2政小、いい加減書きたいんだがここずっとスランプでネタでてもかけないわけです…
そのうちサイトに上げまする。
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